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白紙ページ: テキスト

神川銭湯

平賀まどか

HIRAGA MADOKA

登場人物

神川  裕介(主人公)  30歳   会社員として働いてたが一年前に脱サラをし銭湯を手伝っていたが両親共々体調を崩し入院したため今は一人で店番をしている。家業は銭湯を営み さかえ通りから離れた住宅地の中にポツンとあるがお客は年々減少していっている。
穏やかであり物事に対して慎重な性格であり小さい頃は妹と翔太とは八百屋のじっちゃんのお店に行き来していた

神川   葵(主人公の妹 )25歳    フリーのデザイナー兼イラストレーターであるがまだ駆け出しのため仕事が少なく貯金を崩しながら生活をしている。

田口  翔太  (主人公の幼なじみ)31歳  神川兄弟とは幼なじみであり小さいときから交流があった。今は会社では係長として携わっている。暇があるときは銭湯に顔を出しにいっている。
おおらかな性格で少々強引な所はあるが頼りになる

八百屋のじっちゃん(八百屋)   八百屋と看破に書いてあるのに何故か果物しか売っていない  
年齢は正確には不明だが80は超えているように周りからは思われているようである。身体はヨボヨボで昔から一人で店番をしている。店から銭湯から近いため裕介がよく果物の品出しをしに行きその際に黒猫の神社を教えて貰った
三人とは小さい頃から知っており友達のような関係である

ストーリー

神川裕介は悩んでいた。家が経営している銭湯のことでた。
この銭湯は自分が産まれる前からここにあり昔はご近所の方々が憩いの場として集まり人がいない日はなかったそうだ。
しかし年々客足が減少し今では一日で一人、二人来るぐらいだ。

一年前に脱サラをして店を手伝っていたが、一ヶ月前に両親共々体調を崩してしまい、今は自分一人が店番をしている。
このままでは銭湯が潰れるのも時間の問題ではないかと思っていた矢先、先日病院にお見舞いに行った際に、両親から「今月いっぱいで店を畳んでくれ」と頼まれた。
銭湯を維持するための資金ももう底をついたし、時代の流れだ仕方がないと言われたがやはり諦めきれない。
絵に描いたような昔ながらの木造建築であちらこちらにキズが付いており、スーパー銭湯のようなお世辞にも綺麗とは言えないが女、男風呂共に富士山の絵が今現在も変わらず鮮やかにそびえ立っていた。


どうしたらいいかと頭を抱えていた自宅にある電話が鳴った。
「どうしても重たくて持てなかったから呼び出してすまないの〜」
「大丈夫だよ。丁度暇してたから」

先程電話してきたのは妹と幼なじみの翔太と三人と昔からの交流がある何故か野菜は売らないけど八百屋と掲げている八百屋のじっちゃんだった
歳は定かではないけど見た目80は超えているのに、ずっと独り身でこの店を切り盛りをしている。 
小さいときはよく家に上がって店を手伝ったり遊んだりしていた。
今もたまに果実の品出しの手伝いをしたり逆に銭湯に来てくれたりと昔からの常連客で今なお変わらず来てくれるのは八百屋のじっちゃんだけだ。
「じっちゃんのこの店って、今も変わらず来るお客さんはいるの?」
品出しは終わってひと休憩がてら一緒に茶菓子を食べているときに、なんとなく聞いてみた。
「そうじゃなあ  もちろん昔ほど人は来なくなったが一人は来てくれる人はおる」
じっちゃんは自分の悩みを見透かしたように優しい目でこちらを見た。


今、銭湯におかれている危機的状況のことを話したらある神社のことを教えてくれた。
「あそこのさかえ通りがあるだろう。あそこに小さな神社があるんじゃ。普段は誰にも入れないように閉められているがそこにいる猫神様に気に入られた人しか入れないようになっているんだ」
「あそこにそんな神社見たことないけど本当にあるの?」
「人目につかない場所に置いてあるし閉められているから神社と分からないからじゃろう。その神社の中には猫の像があるんじゃがその猫にこれを奉納するんじゃ」
取り出してきたのは店先に出していたリンゴだった。

「あの猫は大層な風呂と果物好きでな。特に果物ではリンゴが一番の好物なんだ。ワシも昔にその神社の中に入れたんじゃがたまたま持っていたリンゴを奉納したら大変喜んでくれたの。きっと祐介のことも助けてくれるじゃろう。」
そう言ってリンゴを渡しながら手を握った。
「それでじっちゃんはそのとき願ったことは叶ったの?」
「そうじゃなあ……あと少しで叶うかの」
じっちゃんは僕に向けて優しく微笑んだ。

帰路に着く前に、先程教えてもらった場所に行こうと「さかえ通り」によってみたら確かにじっちゃんが言っていた神社があった。
扉は施錠されておらず簡単に入れた。
確かに言ってた通り猫の像が立っていた。
そして風呂も好きと言ってたから、頭にタオルを乗せてこちらをニッコリ見るような顔をしてた
僕は言われた通りリンゴを奉納し「どうか我が家の銭湯を救って下さい」とその場を後にした。
家に入る前にどこから『その願い承ったニャ』と聞こえた気がした。

辺りを見回しても誰もいないため気のせいかと思いながら家に入ると、幼なじみの田口 翔太が一風呂浴びた後の姿でいた
「おー おひさ。勝手に風呂使わさせてもらったぞ」
「来てたのかよ  つーか勝手に入ってんなよ」

そんなたわいのない会話をしてたら、翔太から「八百屋のじっちゃんから聞いたけど…」と今この銭湯におかれている状況の話になった
「せっかく新宿という場所なのに人が来ないのは知名度がないのも原因だよな。 なあこの店ってSNSで宣伝したりしているのか?」
「SNSで?そういえば全然やってないな」
「じゃあ今から始めてみたらどうだ?うちの会社ではTwitterやインスタとか宣伝用で運営していたりするけどやっぱり始める前と始めたあとでは全然売上が変わったぞ」
「んーやるのはいいけど一体どう宣伝すればいいか 」

そのとき窓の外からにゃーにゃーと猫の鳴き声が聞こえた。
そこには黒猫がいてまるで中に入れさせろとばかし何度も泣き窓を開けたら瞬時に中に入りトコトコと店内の奥へといった
「わっなんだあの猫?」
「首輪とかは付けていないからもしかしたら野良猫ぽいな」
「しかもよくみたら足には幸福の印のエンジェルマークがあるしこの猫を宣伝としてもいいじゃね?」
「いやいや飼い猫だったらどうするんだよ」
「そんときはそんときだ。それになんか受付の台が気にいったらしいしな」
その猫は受付の台の上でゴロゴロと鳴きながら寝っ転がっている姿を翔太が連写をしカメラで収めた。

 

 

 

 


 

 

 

「まあとりあえずやってみようぜ 早速広告作りだけど確か葵ちゃんデザイナーだよな?広告のデザインとか頼めそうか?」
「ああ、あいつ今はフリーになってまだ仕事があまり来ないって言ってたから多分大丈夫とは思うけど一応聞いてみるわ」
電話を掛けたらすぐに出てくれた。妹の葵はデザイナー兼イラストレーターであり、数ヶ月前までは広告会社に勤めていたが今はフリーとなって活動をしている。
我が家の銭湯を宣伝用のデザインを作ってくれないかと頼んだら、快くOKしてくれ明日帰ってくると言われた。
翔太が家に帰る際に銭湯の中を散歩してた黒猫も一緒になって帰っていた。
翔太と不思議な猫の背中を見ながら見送った。

次の日の昼間にまた窓の外で鳴き、家の中に入ってきた。
丁度猫が来たと同時に、妹と翔太が来て久々の再開に喜びを感じつつ店の宣伝の話になった。
妹もその黒猫に不思議に思いながら、確かに宣伝で活用しても悪くないと感じ、猫の気ままに銭湯の中を散歩する映像を撮ったりまるで猫が店番をしているような姿やお風呂に入っているような様子を捉えた写真など数枚収めた。

 

 

 


 

 

 

「キャッチコピーもあると、より宣伝効果がつくと思うけど、どういうのにするの?」
翔太が猫を撫でながらこう言った。
「あなたの帰りを待ってますニャとか、お客さんの第二の家はこの銭湯、みたいなニュアンスのキャッチコピーとかいいじゃない」
「悪くはないと思うけど、ありきたりじゃないか」
「じゃあ裕介はどういうのがいいんだ?」
撫でている猫の顔を見るとまた窓の方を見てそろそろ帰るみたいな様子をしていた。


「あと一ヶ月したらこの銭湯をやめます……とか?ほらこの猫飼い猫ではないしずっと居座る訳ではなく気ままに来たりしているみたいだからそういう意味もだしあとは自虐ネタ………みたいな」
「兄ちゃん……インパクトは強いけどそれお父さん達が許してくれるかな」
自分でアイデア出してみたものの確かにこれはいいのか疑問に思う兄妹の横で翔太だけは違った
「いいじゃん!自虐ネタをPRしたら繁盛した店もあるし悪くないと思うけどそれにある意味事実でもあるしな」
それでいこうとグイグイ推されそのキャッチコピーで広告とSNSで宣伝用のアカウントを作成した。

それらを作ってから四日後。

朝から賑やかだと思ったら10数人の人が外で並んでた。

この光景を見たのは数年ぶりかのように感じた。
「なんでこんな朝早くから並んでいるんだ?幻か?」
「兄ちゃん 兄ちゃん!!この数字見て!」
家に泊まってた妹からSNSのアカウントを見せられそこには2千人もフォローされ載せた広告の数々の中に動画が明らかに勢いよく伸びていた。
「あの猫ちゃんが銭湯の中にいる一日をダイジェストにPR動画にして昨日の夜に載せたら、凄い閲覧数と動画再生されたの」
自分はあまりSNS類をやったことなかったから管理などは妹に任せてたが、妹が作ったPR動画が人気になったようだ。


PR動画の他にも「今日もお客さん0人、店主1匹」「店を畳んだら富士山観に行くにゃ」「あと一ヶ月したら旅に出るにゃ」などと自虐キャッチコピー付きの黒猫の写真をあげたら止まることなく更に閲覧数が伸びていった。


それから五日後遂に各SNSのフォロワーが一万人以上突破し、遂にニュースの記事やトレンドにあがるほど注目された。
どうやら黒猫の気ままに過ごす様子やキラキラと輝く瞳や愛くるしい姿を見て実際に会ってみたいという人が多く、各地方にいる猫愛好家や仕事の疲れにお風呂と猫に癒されたいといった人や近所に住んでいる方々など、ぞろぞろと来るようになった。
また足にエンジェルマークが付いているのもあり、あの猫に会えば幸福を呼んでくれると何故か噂が広がり、いつしかご利益がある銭湯と言われるほどとなった。
妹はイラストレーターでもあったため黒猫のイラストを描きポスターやポストカードなどを作ったら毎日即完売をし、更に企業からデザインを依頼したいと仕事が来たようだ。

また妹の案から銭湯にあまり触れていないだろう幼稚園から小学生に向けに銭湯のマナーや実際に銭湯に入る体験入浴を設けたら予想以上より応募が寄せられひっきりなしに予定が埋まり毎日が忙しくなった。


入院していた両親も完治し退院した際その様子にひどく驚いてたがそれ以上に喜んでいた。
肝心な黒猫は相変わらず気のままに来たり来なかったりと気まぐれであった。

ありがたいことに銭湯が繁盛している中、翔太から電話があった。
「 お前んところの銭湯すげー人気じゃんよかったな」
「お陰様に  翔太もありがとうな。色々とアドバイスしてくれなかったら、今頃本当に店を畳んでいたわ」
「いやいや俺はそんな凄いことなんかしていないぞ。そういえばあの黒猫はどうよ?」
「ちょくちょく来たり来なかったりしているけど元気そうだよ。そういえばここ数日八百屋のじっちゃん所に手伝い行ってなかったわ」
「何言ってんだ 裕介。八百屋のじっちゃんはもう二年前に亡くなっているぞ」
「え?だってうちの銭湯が危ないといったこと八百屋のじっちゃんから聞いたんだろ?」
「いや?俺の母さんからお前ん家の銭湯畳むらしいって噂を聞いたから、この間行ったんだけど」
「…………え??」

八百屋のじっちゃんは、二年前老衰で既に亡くなっていた。まだ自分が会社勤めしている中だったから知らなかったのである。
妹はまだそのときはまだ実家に居たため、その事実は知っていた。
じゃああのとき神社を教えてくれたじっちゃんは何だったんだ?
猫神様の願い事はあと少しで全部叶うって言ってたのにその願いは叶わなかったのか?
八百屋のじっちゃん家に行ったら、既にそこは更地になりもぬけの殻だった。
呆然としているとまたあのときの謎の声が聞こえた。
「全ての願いは叶ったにゃ リンゴも大変美味にゃった二人ともありがとにゃー」
声がする方へ向いたらうちに来る黒猫に瓜二つの猫がスカーフのようなモノを身にまとい輝く瞳を細めながらこちらに微笑んでいた
「全てのって…じっちゃんの願いも叶ったの?」
「そうだにゃ。あのじいさんの願い“生まれ変わったら野良猫になって気ままに暮らしたい”はもう既に叶ったにゃ」
その猫は消えるかのようにその場をあとにした。


後日、お礼としてリンゴを持ち神社に向かったがその神社の姿はなくなっていった。
だけど銭湯に来る黒猫は今も変わらず気ままに来てくれるのであった。

 

 

 

 

 


 

りんご
平賀ネコ銅像.jpg
雑魚寝.jpg
風呂に入る.jpg
平賀ネコ本体.jpg
温泉の風呂桶

ちょこっと解説①

「自虐コミュニケーション」

 これまでの企業は「強いブランド」を志向してきました。しかし「強さ」は往々にして、顧客との距離を発生させてしまいます。「ご立派ですね。それが何か?」という反発を喰らうからです。むしろ「弱いところもある」「ハラハラする」「手を差し伸べたい」と思われる対象こそが愛され、応援されることがあります。

​ ローカル線の銚子電鉄では、自社の経営がまずい状態に陥っていることを自ら皮肉って、「まずい棒」の製造・販売を行いました。銚子電鉄の社長は、講演会などで「電車屋なのに自転車操業」とギャグを飛ばすそうです。しかし、こうした姿勢が顧客との距離感を縮め、ファンを増やしている要因となっているのは間違いないと思います。徐々に応援する人が増え始め、2020年に公開された映画『電車を止めるな!』(超C級(銚子級)ホラー映画?)には、中田敦彦(オリエンタルラジオ)さんらが友情出演しています。

 日本人にとってアイドルとは、完成されたエンターテイナーではなく、未完成で不完全、成長途上のタレントを指します。そのアイドルに自らが関わって、育てるところに楽しみを見出してきたわけです。企業もブランドも、そうした「伸びしろ」を示す意味で、自らの足らないところ、ダメなところを積極的にオープンしていったほうがよいのかも知れませんね。

 「広告が自慢話だったのは、20世紀までのこと」です。考えてみたら自画自賛って、カッコ悪くないですか?

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