
ラーメン「ひがし」
福嶋彩郁 中町かおる
ラーメン屋を開くことが夢であった佐々木は、日本のラーメン消費量1位である新潟で皆から愛されている「みなみ」というお店で修行することを決めた。
みなみの店主である鈴木から多くのことを学び、長年の夢であった自分の店舗を東京・高田馬場でラーメン屋「ひがし」を出店することを決めた。
佐々木は、新潟では好まれていた味で勝負しようと決めていて、かなりの自信があった。
開店当初は、新店舗ということもあり、ラーメン好きや興味を持った人が来店してくれた。
しかし、徐々に客数が減ってきてしまった。お店を継続するためにどうすればいいかを考え、経営に関する本を見て勉強もしたり努力を重ねていた。
また、「ひがし」はみなみの店主である鈴木から応援されて出店したため、すぐに閉店しなければならないということは鈴木に対して面目ない。そのためどうにかしてでもお店を継続させなければならなかった。
ついにお客さんが誰もこなかった日の帰り、店から高田馬場駅に向かうとき、ふと古い神社を見つける。
この神社には誰もいなっかたが、黒い猫が一匹だけいた。
その猫から凄く見られているような視線を感じながら、とりあえずそこで「商売繁盛」の祈願をした。
その日から少しすると、お祈りのおかげか、また客数が少しずつ戻り始めた。
客数が増えたことにより、ひとりで店を営業することは難しくなった。
しかし多くのアルバイト雇うことはできないので、東京出身のラーメン好きの経営学を学んでいる大学生のアルバイト・斉藤を雇うことにした。
開店して半年。
味には自信があったが、少しずつ客数が減少し、お客さんがまったく来ない日もあった。
佐々木は店が営業できないようになってしまう前に、斉藤と最近の客数減少についての原因は何かを話すことにした。
まず、近所の店に偵察に行くことにした。
そして偵察に行った店の店主と仲良くなり、その店主も佐々木と同じように地方から上京したという共通点があった。
ある店は、近々閉じなければならない状況に追い込まれていた。
自分と同じような状況になっている店を見て、佐々木は悲しくなった。
そんなある日、久しぶりにお客さんが来た。
そのお客とは、昔佐々木が修行をしていた「みなみ」の常連の杉本だった。東京に転勤していたのだ。
杉本は「みなみ」の辛味噌の味がずっと忘れられず、高田馬場にある辛味噌の味のラーメン店である「ひがし」に来た。
しかし「ひがし」にお客さんが来なくなり、経営が難しくなっていることを知る。
杉本は「ひがしの店の味は、新潟で人気のあるみなみの味だから、味は確かだ。でも高田馬場で店を経営するためには、別の工夫をして差別化を図らなければならない」とアドバイスをした。
杉本から受けたアドバイスを参考に、佐々木は斉藤と店についてたくさんのことを考えた。
しかし杉本が言うように「差別化」について考えて見たものの、ラーメン一筋の人間であるため何をすればいいか、佐々木にはわからなかった。
そこで大学で経営を学んでいるという斉藤が、ちょうど授業で差別化戦略について学んでいたため、佐々木は案を受け入れた。
斉藤と話してみた結果、東京と新潟ではラーメンの味の好みが異なることがわかった。
新潟ではラーメンといえば辛味噌という赤いニンニクなどが入った味噌ラーメンが有名である。
一方東京では全国のいろいろな味を楽しむことができるが、やはり定番は醤油ラーメンである。
味の好みが違うということで、新潟では行列のできるほどであったにも関わらず、東京での客数が伸び悩んでいることがわかった。
ここから、お客さんを増やすためにはどうするか戦略を、斎藤と一緒に考えることにした。
客層が、サラリーマンや大学生など男性がほとんどであったが、口コミで新たな客に来てもらうためには、何とか女性客を開拓しなければならない。
そのためにも、女性のお客さんが入りやすい綺麗な外装や店内にリフォームすることにした。
また、ひとりでご飯を食べるのが恥ずかしい女性がいる、という指摘もあった。
そこで、仕切りをつけて、ひとりで食べていることがわからないようにしてみた。
問題は味だった。
佐々木はどんな味でも出せる自信はあるものの、東京には全国から多様な人たちが集まっており、味の好みも多様である。
そこで、麺の太さ、スープの味、トッピング、盛り付けなど、自分の好みのメニューをお客さん自身に考案にしてもらい、一週間ごとにお客さん考案のオリジナルラーメンがメニューになるというのはどうか、という話になった。
それらが半年で二百杯注文が入れば「ひがし」で定番化する、という新たなラーメン探しをすることにした。
また、定番化したラーメンを考案したお客さんには1年間ラーメンが無料で食べられる「ラーメン無料券」も渡すことにした。
「お客さん考案ラーメン」を作れることに面白さがあると話題になり、雑誌やテレビなどからの取材も来て、だんだん客数が増えてきた。
自分が考案したラーメンを定番化してほしい、と何度も食べにきてくれるリピーターも増えた。
そして、ラーメン屋に見えない外装のため、女性ひとりでも入りやすくなった。さらに他人からの視線を感じることなくラーメンを食べられると口コミで話題になり、徐々に女性客も増えていった。
こうしてたくさんのお客さんが入ってきたことにより、アルバイトの人数も五人に増やすことができた。
順調にお店が繁盛していき、ついに二号店を出店することが決まった。
その記念に、本店のメンバーで写真を撮ることにした。そしてその写真を本店と二号店のレジ横に飾ることにした。
二号店は、斉藤を含め、本店のアルバイト、そしてもう1人の佐藤と三名体制で営業していくことにした。
ついに来た二号店の開店日。
しかし、開店準備の時間になっても、店長であるはずの斉藤が出勤してこない。
佐々木は不安に思い、佐藤に斉藤に連絡するように頼む。
ところが佐藤はなぜか、「えっ、斉藤さんって誰ですか?」などと言い出す。
佐々木はそんなはずはないと思い、本店のメンバーで撮った写真を見せようとした。
しかしそこには、斉藤が写ってないことに気づき驚いた。
写真にはなんと、佐々木自身の足元に、以前お祈りした神社の黒い猫が写っていることに気づいた。
佐々木は、斉藤があの神社の黒い猫なのではないかと思い、神社を訪れた。
そこで、横になっているあの黒い猫を見つけた。
佐々木は黒い猫に感謝の気持ちを込めて、神社にもう一度お祈りをして帰った。
のちに二号店も無事繁盛し、佐々木は有名店のラーメン店主になった。

ちょこっと解説③
「裏メニュー」
スターバックスでは「チョコレートクリームチップフラペチーノ」や「ロイヤルイングリッシュブレックファーストティーラテ」といった裏メニューを頼めるとされています。注文するにはちょっと、勇気が要りますけどね。
マクドナルドでも「揚げたてポテトをください」と頼めば、少し待たされますが、揚げたてのアツアツを食べられます。また、期間限定でアルティメットチーズバーガー(チーズ×5枚)などが頼めるキャンペーンなども実施しました。
餃子の王将の「天津飯あんだく」は裏メニューでしたが、正式メニューとして販売されたこともあります。チャーハンと天津飯は通常の4倍以上、ラーメンは麺が4玉入れる「ギガントメニュー」というのもあるらしく、一部店舗のみで販売されているそうです。
こうした裏メニューを設置するメリットとは何でしょうか。
・常連客やリピーターを増やす
・客と店員との対話が生まれる
・店に対しての期待感やサプライズ感が生まれる
・SNSや口コミのネタになる
・顧客ニーズを把握する指標となる
…といったところかと思います。
もちろん原価計算やオペレーションなどは考慮に入れないといけませんし、店の側から「裏メニューあります」みたいなことを宣言すると興ざめですが、技術やサービスの奥行き、そして茶目っ気を示すためには大事な要素のひとつかもしれません。