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駄菓子屋サブスクリプション

渡辺  敦

菓子店

主人公設定

  • おばあちゃん子

  • 東京富士大学出身

  • 祖母の駄菓子屋を引き継いだがどうにも経営が上手くいかない。

  • 昔から開かれている駄菓子屋のため地域での知名度は高いが、顧客としては期待できない程度のため、売り上げがギリギリ店を維持できるかどうかというところで、自分の貯金を切り崩しながらなんとか経営している。

  • 店を潰したくないが、銀行に融資が通らず、意気消沈しているところに昔通っていた大学の近くを通った。



駄菓子屋高田の店主である高田隆二は困っていた。
店の売り上げは足りず、全てを維持費に回して何とか経営できているような状態。
ダメもとで銀行に融資を頼むものの当然、成長性がないために断られてしまう。
頼んだ銀行の最寄り駅である高田馬場駅近く、母校の存在を思い出したところで、そういえば、と学生の頃に聞いた噂話のことを思い出した。
栄通には猫又がいる。その猫又に会うことが出来たなら少しだけ幸運になれるという。
清水川稲荷神社という、道路わきに隠されたような神社があり、そこへ参拝し、運が良ければサカエモ、という猫又に会えるらしい。
早速、高田はさかえ通りを右に逸れ清水稲荷神社に参拝をした。
賽銭箱に五百円玉を入れ、二礼二拍手一礼する。
商売繁盛しますように、と願ったが、当然何も起こらない。猫又が出てくるということもない。
期待外れだったか、と肩を落として帰る高田を見ていたのは、縦長の瞳孔を持つ一対の眼だった。


久しぶりに駄菓子屋に初見の客が来た。

仕立てのよいスーツを着ているようだが、仕事帰りではないようだった。黒猫の可愛らしいネクタイが浮いていた
「駄菓子屋かあ、懐かしいなあ」
冷やかしに来ているような口ぶりだったが、楽しそうに商品を選んでいるから何も言わないことにした。
男は店の中をぐるりと見渡して、こちらに質問してきた。
「昔は僕も良くたまり場にしていたもんですけど、最近はもう小学生は来ないんですか?」
「いやあ、もう最近は全く。よく小学生も通りかかるんですけど、学校帰りでお金を持ってなかったりして。あとはテレビゲームで遊ぶから外には出なかったり、ですよ」
「なるほど、それは厳しいですね。僕ら大人はカードや、最近では電子マネーなんかもあるけど、子供には大抵現金、それでも持たせない場合が多いですからね」
「技術の進歩が恨めしいですよ」
「お金を持ってなくても買える仕組みなんかがあれば、変わるのかもしれませんね」

「ほう…」



男はそのまま、いくつかの駄菓子を買って出ていった。
高田には男の言っていることには一考の余地がある気がしたため、昔なじみの友人に相談することにした。

同じように親戚の店を継いだ仲で、精肉店をやっているはずだった。
「うちではこう見えてもサブスクを活用してる。サブスクリプション」
「それってインターネット?」
「いや違う、肉屋のサブスクだよ。うちだと、月初めに一定額のお金を支払ってもらって、そのあとは週に一度取りに来てもらう。基本的にはその値段に収まるように俺がいいと思った肉を詰め合わせで渡すんだ。時々、馬肉とかの変わり種を入れたりして、それらの調理方法を教えたりもする。来てもらうのが目的だから、料金としてはかなりお得なんだ。」
「俺らみたいな店にとってはまず来てもらうのが大事だしな」
「そう。スーパーとかに客を取られて大変だけど、質と種類は負けないからな。隣の八百屋と協力して、おすすめの付け合わせなんかも紹介したりして、結構評判良いんだ。」
「なるほどな。参考になったよ」



駄菓子屋にサブスクリプションを導入するにはどうすればいいかとあれこれ考えて、箱詰めにした。
月初めに定額を払ってもらい、カードと手ごろな箱を用意する。
カードを見せればその箱に駄菓子詰め放題で、これを月に十回まで行うことが出来る。
先にお金が入ってくるから仕入れも楽になる。現金を持たない小学生も気軽に買うことが出来る。
学校帰りの小学生を捕まえて、チラシを握らせて帰らせると次の日に何人かが申し込みに来てくれた。
そのあとも、小学生同士やママ友の口コミで評判は広がっていき、どんどんと駄菓子屋高田のサブスク会員が増えていった。
どうにか、このまま経営を続けていけるだけの利益を出せるようになり、高田は一安心した。

 


 

少女と猫
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